少子高齢化、虐待問題など、子育てに関連する暗いニュースが目立つようになった昨今。
世のお母さんたちに向けられる目は、日に日に厳しいものになっています。
今の社会で、もっとも”生きづらさ”を抱えているのは、もしかしたら、お母さんたちなのかもしれません。
今回インタビューを行なったのは、転職サービス「withwork」を展開するXTalent株式会社の執行役員、松栄友希さん。松栄さんは、ふたりのお子さんを育てるお母さんでもあります。
今の「母親世代は専業主婦の家庭で育った女の子が多い影響で、母親に関係する自分の固定観念が強い」と語る松栄さん。
現代の女性が抱える労働環境や働きかたの問題を解決すべく、松栄さんたちが目指す”フラット”な社会とは?
働く女性たちの未来についてお聞きしました。
<Profile>
松栄友希
XTalent株式会社執行役員
2007年神戸大学卒業後、人材企業にてクリエイティブ職、宣伝を担当。大阪出身。その後化粧品会社にてPR、商品企画に携わる。
2011年リブセンス入社。既存事業のグロース、初のTVCMなどを担当した後、新規事業家具ECの立ち上げを行う。その後、ITエンジニア向け競争入札型転職サイト「転職ドラフト」の立ち上げをProduct Managerとして担当。2019年9月XTalent株式会社に入社。現在は執行役員を務めつつ、2児の母。2014年第一子、2018年第二子出産。
苦しい立場に置かれている人が、活躍できて、ちゃんと給料がもらえる環境を提供できると、社会全体が幸せになる。
ー松栄さんはXTalent株式会社で執行役員を務めつつ、ふたりのお子さんを育てるお母さんでもあります。子育てと仕事の両立は想像以上に大変だと思いますが、どうやって本業と母親業を両立しているんでしょうか?
「自分の本当にやりたいことをノートに書いて絞る」ようにしていますね。それに行き着いたのはいくつか要因があるんです。まず一つ目は、私のキャパシティがパンクしちゃった経験ですね。毎日ご飯を作って、掃除をして、買い物をして、それをさらに子供の相手をしながらこなす、ってキャパ的にもう無理すぎて(笑)家庭と仕事の両立がうまくいかずに体調を崩しちゃったり、夫とも喧嘩をして夫婦の関係性も悪化したり。家庭内がギスギスした空気になっちゃったんですよね。
二つ目は、「好きなことはできるけど、そうでないものはそもそもやらない」という私の性格が要因ですね。仕事が追い付かずにイライラしているのが家族に伝わっていた時期があったんです。仕事面でも単純に今までと同じような方法で取り組んでいたら間に合わない。夕方に帰宅しても、slackに張り付いて、業務のコメントを返し続けているような状態で。途中で「あ、これダメだな」と。
それで仕事と家庭それぞれで、まずは自分のやりたいことをノートに書き出してみることにしたんです。
ーノートに書き出してみて、どんな効果がありましたか?
単純にとりあえず書いてみることで、自分がもやもやしていることや、タスクを可視化できたのは大きかったですね。書くこと自体が精神的な安定に繋がって、冷静に自分を捉えられるようになりました。ノートにアウトプットをすることで、頭の中に隙間を作るイメージですね。
-家庭の時間の中でも、仕事のことを考えるのはしんどくなかったですか?
むしろ私にとっては楽なことなんです。子どもは思い通りにいかないし、理不尽なんですよね。ずっとマンツーマンで関わっていると、フラストレーションがどんどん溜まってしまう。だから、違うことを考えている方が精神的には楽なんです。例えば、子どもが寝付きが悪い時に、「あの機能の中身どういうものにしようかなぁ」とか、あえて仕事のことを考えて、ネガティブな感情を逃すようにしていますね。
ー100%全力で子供と向き合うと、メンタルやられちゃいますよね。
やられますね(笑)子どもがまだ言葉を上手く話せない間、家庭では子どもに合わせたコミュニケーションしか取れないんです。でも、元来、私は人と話すのが好きな性格なので、話したいことがいっぱいあるのに、話を聞いてくれる受け皿が家庭内になかったんです。だから、仕事もプライベートの話も、仕事のチームに共有することで、話せないってストレスを発散していました。
-共有することで、チームのポテンシャルには何か変化はありましたか?
メンバーの効率アップに直接は繋がらないけど、チームメンバーに私自身の働き方や考え方、自分の家庭のスケジュールを知ってもらえることで、それを考慮した働き方をしてくれるようになりましたね。時短になってからも、フルタイムの時と比べチーム全体でも生産性は落ちていないと思います。子どもがいる家庭がどんな事情を抱えているのか、メンバーがちょっとずつ学んでくれました。
ー松栄さんの姿勢は、withworkなどのXTalentが提供しているサービスに繋がっていることですよね。
そうですね。私のように、仕事が好きで時間制約があってもバリバリ働きたい!と思っているママやパパに、そのビジョンがを実現できる環境をご紹介したいんです。本当は思い切り働きたいのに、環境のせいで自分が思う働き方を実現できない現実って、まだまだたくさんあるんですよね。時短になった瞬間に仕事のない部署に異動させられたり、同じ仕事をこなしていても給料が減ったり。苦しい立場に置かれている人が、もっと活躍できて、ちゃんと給料がもらえる環境を提供できると、社会全体が幸せになりますよね。
ーまだまだ世のお母さんたちには、仕事よりも子どもに100%コミットするべき的な「愛情至上主義」が課せられていると感じます。
今の母親世代って、専業主婦の家庭で育った女の子が多い影響で、「母親」に関係する自分の固定観念が強いんですよね。私自身もそうですし。お母さんは、いつも家族のために手料理を作って、子どもと夫の帰りを待っていて、子どもともよく遊んで、家も綺麗に掃除していて、いつも笑顔を絶やさずニコニコしている、みたいな。「母親はこうあるべき」「奥さんはこうあるべき」っていう固定観念が強すぎるんですよね。その固定観念の殻を脱せるかどうかが、実は一番ハードルが高いことなんです。私の場合は「これはもう無理だ!」ってなりましたし、むしろ、その殻はもう現代に見合ってないんだよ、ということを発信していきたいですね。
-松栄さんご自身では、昔は「母親」に関係する固定観念がありましたか?
ありましたし、まだまだ取れ切っていない部分もありますよね。私は根が真面目で、「母親だからやらなきゃいけない」って思い詰めることが多かったんです。それとは対照的に、夫は合理的な考え方の持ち主なんです。うちの夫はもとは綺麗好きなんですけど、ある時、夫が綺麗好きを止めたら、彼はものすごく楽になっていたんですね。それで、固定観念ってなんだろう、って疑問を持つようになって。じゃあ、「私も固定観念を手放してみよう」と思ったんです。
ーなるほど。
実際に固定観念を手放すことで、今まで持っていた価値観そのものが変わりました。元々、私は性格的に完璧主義だったので、どれもこれも完璧にこなせて一人前、って感覚があったけど、完璧じゃない自分も好きになろうよって思えたんです。手抜きしている自分を許して好きになることができた。
でも、私も気持ちの切り替えがまだまだ課題だと思っています。仕事でへこんだときや、疲れたときに家族に自制できずに、キツめにあたってしまいがちだし、気をつけていますが乗り越えられてはいないですね。
ー固定観念を手放すことで、子育てや仕事でどんな変化がありましたか?
”子どもと親”という関係ではなく、子どもに対しても”一人の人間”として、向き合うようになりました。
例えば子ども相手の時、質問に対する正解の回答を、最初からストレートに教えにかかっている気がするんです。例えば、折り紙の折り方だったら、最初から正しい折り方を教えてしまいがちで、「あれ?これって子どもの創造性を毀損しているかも」ってふと思ったんです。同時に、仕事も同じことなんじゃないか、って気づきもあって。最初からセオリーだけを押しつけすぎると、個性をなくしてしまう可能性ある。押し付けてしまうのではなく、セオリーだけは教えて、その上で褒めてあげて、自由の幅を作ってあげることがチームリーダーとして大事なことだな、って気が付いたんです。でも、大人相手だとちゃんと考えるけど、子どもに対しては相手が何も知らないことが前提なので、どうしても正解を教えがちになっちゃいますよね。
ー今は教育においても「子どもの個性を大切に」という価値観が尊重されますよね。
家庭と仕事を両立してきてわかったことなんですけど、結局は本人がやりたいと思ったことが一番伸びるんですよね。自分の気持ちに正直なる。それが一番効率的なことなんだって。だから、例えば子ども本人が、今まさに文字に興味があったとしたら、そのタイミングで文字を学んだ方がいいと思うんです。他の子の学習の進み具合がどうとか比べても、あんまり意味がないんですよね。
まずは「男性は家庭を差し置いて働くもの」という価値観を変えることも重要。
-今は母親業というハードルが高く設定されている気がします。
今では保育園児たちだけで歩いていると「あそこの家庭はどうなっているのか」「あそこの親は何してるんだ!」と、周囲から不審に思われることがあるんです。昔は拡大家族が一般的で、親との同居家庭が多かったので、家事や子育てを分担することができましたよね。でも、現在では母親が一人で何役もこなすようになっているんです。そこにプラスで仕事もしなきゃいけないので、仕事でも家庭でも短距離走的な生産性を求められていることが、しんどさに繋がっていると思うんです。
ー子ども同士の喧嘩の仲裁でさえ、まずは優しく諭しましょうって風潮もありますよね。
そうそう。私が子どもの頃は、子どもが悪さをしていたら、周囲の人が叱る乗って当たり前でしたよね。でも、今はそれも母親の役割になっているんです。子どもについて回って、母親が一生懸命それを阻止するという状態。それって、子どもがやっていいことのハードルを下げることになっていると思うんです。結果的に子どもの遊びづらさに繋がっちゃっているな、って。「思い切り遊びたい!」って子供の欲求は昔から本質的に変わらないですよね。それで、子どものフラストレーションを受けるのは母親で、母親は自分自身のフラストレーションを発散できる場所がない。自然にストレスを溜めてしまっているんです。
-女性の社会進出が活発に議論されていますが、現実は近づいていない気がします。
はい。でも、まずは「男性は家庭を差し置いて働くもの」という価値観を変えることも重要だと思うんです。そもそも男女間で給与の差があり、男性の方が給料が高いから男性が働くべきと言われる時点で、ジェンダーバイアスが発生しているんですよね。それに、働くお母さんのイメージってゆるく働いていたり、アシスタントなんでしょ、って固定観念はまだまだ根強い。スキルや能力が同じなら男性も女性も同じ年収をもらえて当然なのに、女性の能力が軽視されていて、根本的に給与が上がらないという構造の問題が社会に横たわり続けているんですよね。今の日本の現実として、実質の賃金は下がり続けているので、夫だけの収入で生活していくのは難しい。だからこそ、男女で同じように働くのであれば、同じような家庭への関わり方をして、同じような負担をすることが健全ですよね。
ー女性が産休や育休から復職しても、職能に見合ったポジションが与えられずに、自己承認欲求や社会に進出している実感が満たされないという声もありますよね。
「時短勤務でも能力が高い女性はいる」という当然の事実に対して、企業からは「そんな女性、見たことない」って言われるんです。「前例がないからイメージがつかない」って。子どもを産んだだけで、女性の能力は変わらないのに、です。
ーなぜ企業側にそのようなバイアスがかかるのでしょうか?
母親の仕事はパート前提っていう、古い考えがまだまだ日本企業に残っているのが理由だと思います。出産後は、能力値に見合わない仕事しか任せられないこともあるし、働く母親の前例を作れていない世の中にも疑問を感じますよね。
-終身雇用制などの日本企業の負の遺産でもありますよね。昭和的価値観から変われていない部分というか。
キャリア形成には能力だけではなく”スポンサー”が必要なんですよね。仮に直属の上司に、可愛がっている男性の後輩がいるとしたら、次のリーダーを決めようという時にその後輩を選出しますよね。キャリアに有利な仕事をアサインしてあげたり。その結果、男性が男性を上のポストに据えてしまう現実はまだまだあります。まだ成果主義は浸透していないし、男性よりも女性の方が優秀でも、現実には男性が優位にキャリア形成していくことの方が多くあります。
なので、私たちは今後、会社全体としての概念を更新して、新しい価値観を生み出したいと思っています。
ー新しい価値観、ですか。
はい。メディアを通して「個人を大切にする”フラット”な社会」を作りたいと思っています。
女性が働きやすい環境を整えている企業にヒアリングをすると、まず会社としての前提がとても”フラット”なんだということに気付いたんです。組織と個人の理論を分けることが大切だと考えているんですよね。まずは個人一人ひとりのことを大事にする”フラット”な社会にするのが大切なんだって思ったんです。
私自身は、昨日より今日、今日より明日の自分がいいな、好きだなと思える人生を歩みたいんです。今、自分がいる環境で、本来持っていたはず「好き」に正直になれない人も多いですよね。「今日の私幸せだな、明日の自分も幸せだな」と思える社会は、あともう少しで作れる気がするんです。プラスな感情で、仕事や家庭に向き合えれば生産性は絶対に伸びていくと思うし、日本全体のGDPも上がる余地があるはず。だからこそ、人間をプレスするような社会をやめて、”フラット”な社会を作りたいんです。
ー特にお母さんは固定観念に縛られている人が多いですよね。
インターネットが普及したことで、「教育はこうするべきだ」「母親のあるべき姿とは」みたいな情報が目に入りやすくなっているし、お母さんに対しても批判が多い世の中になっています。何もやっていないのに批判に感じてしまったり。でも、世の中のメッセージをもっと許容できる世界になれば、みんなが生きやすくて幸せになりますよね。人と比べるより、自分自身で幸せだと思えるような人生の方が、私は絶対豊かなものになると思っているんです。
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