女性活躍のために一番必要なのは、男性側の働き方を変えること。ー上原達也(XTalent株式会社 代表取締役/2児の父)

今の時代、子育てに苦悩しているのは、ママだけじゃない。

パパママ転職サービス「withwork」を展開している、XTalent株式会社の代表取締役 上原達也さんはインタビューでそう話します。

上原さん自身も二児の父親で、仕事と家庭の間で悩んだ経験の持ち主。

「自分は仕事にコミットしなければならない。家族との時間は後回しにしないといけない」という強迫観念が、自分の中にあったんだとか。

社会での出世レース。家庭と仕事を両立させる中で生まれる葛藤。頑張っているパパは、パパたちなりに、リアルな悩みを抱えています。

そんなパパやママのためのサービスを展開する、上原さんだからこその”幸福”観とは。

その”幸福”の形についてお聞きしました。


<Profile>

上原達也

XTalent株式会社 代表取締役/二児の父

愛媛県今治市出身、2010年に京都大学卒業後、新卒でITベンチャーに入社。SEOコンサルや人事、広報などに携わった後、新卒で海外事業の立ち上げに従事。2017年にJapanTaxi株式会社へ転職。事業開発を担当し、国土交通省との実証実験や、法人向けの新規事業立ち上げをリードする。2019年7月にXTalent株式会社を設立、withworkというママ・パパ特化の転職サービスを運営する。

また、二児の父親でもあり、2014年に長女が。2018年には次女が誕生。


今までの男性の働き方であったり、キャリアアップの方法を変化させないと、女性の環境も何も変わらないと思うんです。


ー今、上原さんはどんな瞬間に”幸福”を感じますか?

仕事後、妻と子どもたちが帰宅し、自分が夕食を作って家族で食事している時間ですね。今2歳と5歳だから、とてもわんぱくで姉妹同士でケンカもしょっちゅうで(笑)家の中はいつも騒がしいんです。でも、子どもの言動がすごく面白くて、よく妻と顔を見合わせて笑っちゃったり。そんな瞬間が、今はとても幸せだなと感じています。


ーお子さんが生まれてから、ご自身の結婚観や子育て観が変わったことはありますか?

はい。僕は以前は結構なハードワーカーだったんです。仕事を通して、自分がどれだけ成長できるのか。それが結婚した当初は、僕の中では大切なことだったんです。妻が寝た後に帰宅して、起きる前に出社するような生活を送っていました。でも、子どもが生まれてからは、自分の時間をどう工夫して使うか、子どもに向き合う時間をどうやって作るかを第一に考えるようになりましたね。

それでも、子育てと仕事の狭間で葛藤していた時期はありました。


ー葛藤、というと?

長女が生まれた頃は、仕事も忙しかったし、自分でも思いきり働きたいという気持ちに溢れていたので、土日含めて時間の使い方に制約ができたことに大きな戸惑いがあったんです。仕事で成長したい。成果を出したい。でも、家族と過ごす時間も作りたい。そのジレンマを感じていましたね。

それに「自分は仕事にコミットしなければならない。家族との時間は後回しにしないといけない」という強迫観念的もどこかにありました。


ーなぜ、そういった強迫観念が生まれたのでしょうか?

自ら望んで急成長するベンチャー企業に身を置いていて、仕事で大きな成果を出したかったからだと思いますね。子供が生まれる前は、平日は朝から夜中まで働いて、休日も仕事のためのインプットに費やしていました。だから子どもが生まれてから、土日に自分の時間が使えないことに困惑したんです。家族との時間は大切にしたい。だけど、その一方でインプットする時間は減っていく。自分の成長のためにWeb業界に入って、しかもベンチャー企業という環境に身を置いているのに、仕事に100%コミットできない。周囲に置き去りにされるような、社会に取り残されるような感覚になりました。


ー「仕事」と「家庭」を両立させる上での苦悩があったんですね。

そうですね。仕事と家庭の優先順位をつけることが出来なくて、どっちつかずな状態でした。自ら選んだ仕事だったので、自分の中のあるべき姿に縛られていたように思います。当時は妻がメインで子育てをしてくれていて、大変そうな姿を見ている一方で、自分は仕事に打ち込むべきだという思いを抱えていて。自分の中で仕事と家庭、どちらにどれくらい時間を割くべきなのか。その優先順位がつけられなかったんだと思います。中途半端な自分に悶々としていましたし、妻は本当に大変だったと思いますね。


ーなるほど。今年のコロナ禍で、在宅ワークが基本になって変化はありましたか?

家庭と仕事のメリハリをつけられるようになったのは、間違いなくコロナになってからですね。

僕は在宅ワークなんですが、妻は出社しているんですね。それで、妻の代わりに料理やお風呂など家事育児の多くを担当するようになって、ようやく妻と一緒に子育てや家事に取り組めているな、って思えるようになりました。妻の負担も軽減できているし、理想的な家族の形になってきているな、と。

仕事面で言うと、この制約の中でいかに効率的に仕事にコミット出来るのかを、必死に考えるようになりました。覚悟が決まった感覚はありますね。


ー悩みながらでも自分の軸が見えてきた、というわけですね。

そうですね。まあ、いまだに葛藤を抱えてはいるんですけど(笑)ようやく自分の中の「仕事」と「家庭」のちょうどいいバランスをが見えてきましたね。今は子育てより、仕事を優先してしまうと、将来後悔するような気がしているんです。自分のスタイルで仕事と家庭への向き合い方を模索して、少しづつ自分の理想とする幸福のバランスに近づけています。


―コロナで在宅勤務になったことで、世の父親側の価値観も変わりつつありますよね。

本当にそうですよね。コロナ禍で家庭や子育てに対する女性の負担が顕著になってきていているし、子育てに対して変わっていこうとしている人もまだまだ少ない。それでも、世の中の価値観の変化も感じています。まさに価値観の転換期だと思いますね。


ーwithworkは子育て中のパパに対してのサービスでもありますよね。世の中の子育てに奮闘するパパも、苦しんでいるのでしょうか?

苦しんでいると思います。確かに子育てに関しては、女性に物理的負担が多く偏っているし、表面化しやすい。ですが、パパもパパなりの問題を抱えているんです。

僕は前職の上司が子育て中のママで、ありがたいことに育休や子育てに対して理解ある環境でした。でも、人によっては会社側から「なんで男である君が子どもをお迎えに行かなきゃいけないんだ!?」とか「子どもに関することは奥さんに任せれば?」ってことを言われる人もいて。男性の育休取得率の低さは、会社がどれだけ理解を示してくれるかって問題でもありますが、それ以上に育休を取得することで出世レースに後れを取ってしまう、という男性側の恐怖や焦りもあると思うんですよね。


―男性でキャリアの断絶に対する恐怖や不安とかを持っている人は間違いなく多いですよね。

パパ・ママ問わず、人はジェンダーに基づいたバイアスを少なからず持っているものです。今でも私たちには無意識的に、サザエさん的な家族観が根付いているんですよね。「女性だから家事育児をもっとしなくちゃ」とか「俺は男だからもっと働いて、出世しなくては」とか。こういったバイアスはまだまだ根強いと思うんです。


ーXTalentの父親が抱える環境に対して、どのような支援をしてきたいと考えていますか?

まずは女性と男性の家事分担をイーブンにできるようにしていきたいです。例えば、子供が熱を出した時に、迷わず父親が迎えに行けるようにしたり、男性でも育休を取得できる社会にしていきたいんです。僕らの取り組みは、苦しんでいるパパのためにもなるし、それ以上に苦しんでいるママのためにもなると思っています。女性活躍が声高に叫ばれていますけど、実は女性活躍のために一番必要なのは、男性の働き方を変えることなんですよね。


ー男性の働き方の変化が女性活躍につながるということですね。

そうです。ひと昔前は、第一に「女性が職場に復帰できない」ということ問題でした。だから、法律で産休・育休を絶対取れるように保障して、復帰後の時短勤務も給与など一定期間保障するようになりました。それで、法律が整備された結果、復帰できる女性は増えた。けど、「仕事で活躍する女性」はバリバリ働く男性と同じレベルで働かないと、なかなか管理職にまでなれませんよね。しかも、男性の働き方は変化せずに、女性の働き方だけ変わっているので、女性の家事負担が重くなっている。だから、女性の働き方”だけ”を変えるというよりも、今までの男性の働き方であったり、キャリアアップの方法を変化させないと、女性の環境も何も変わらないと思うんです。


ー昭和から引き継がれてきた日本の企業文化は、非常に男性的な側面が大きいですよね。

ええ。まさに。日本の働き方は、新卒一括採用で大人数が一律入社して、そのうちの数人が出世ルートに入っていく。これが一般的な働き方でした。この価値観って非常に男子校的で。この出世ルートの中には「結婚」とか「出産」というライフイベントは含まれていませんよね。こういった今までの働くことに対する一律的な価値観、マネジメントを土台から崩して、多様化していかないと、子育てと仕事での活躍の両立は現実的に難しいですよね。なので、男性の在り方自体を変えていく必要があるんです。そのためには、まず、リーダーの多様化が必要なんです。

確かに今、日本にいる人たちの働き方は確かに多様化しています。でも、残念ながらリーダーは多様化していないのが現状なんですよね。


―経営層や上の立場の人の考え方が変われば、社会も大きく変化しそうですよね。

難しいことだとは思います。でも、意思決定をする立場の人の中で、新しい価値観や多様な考え方が広がれば、社会も変わっていきますよね。実はマネジメントをする人たちには、下からの声よりも、横からの声の方が響くんです。だからこそ、まずは上の立場の人たちが多様化していくべきなんですよね。


性別など属性ごと固定観念が薄まり、もっと「個」をベースとした幸せの在り方が認められるようになっていくんじゃないかな、と。



ーコロナ後は、会社が個人の幸福をサポートする側になっていかないと、人材を確保できないし、会社的にも成長できないようになると思います。

今までは福利厚生がしっかりしていて、給料もいい。いわゆる「長く働ける会社」が一律で”良い企業”とされていました。しかし、その後に「やりがい」を求めてベンチャーに入社する人も増えてきましたよね。その中で僕らの世代、いわゆる”ミレニアル世代”はやりがいと家庭、ライフイベントと仕事の両立を目指す傾向があります。

ミレニアル世代の考え方にいち早く気がついた企業は、社員に対する働きやすさや社員の権利を保障するようになると思いますし、逆に会社が時代に合わせて柔軟に変化していかないと、ミレニアル世代の社員達は会社にコミットにしてくれなくなるんじゃないかな、と。


ー今まではサラリーマンは組織の一員として、個人よりも会社全体の幸福のために一丸となって働くのが一般的でしたよね。

今までは幸福のモデルケースが社会全体に強く根付いていたと思うんです。例えば、『サザエさん』とか『クレヨンしんちゃん』のような、男性は大黒柱としてお金を稼いで妻子を養って、マイホームを建てて幸せに暮らす、っていう家族や親に対する固定観念がありましたよね。

でも、子どもと一緒に今の『プリキュア』を見ていて、「あ、今までとは全く違う価値観で物語が作られているな」と感じたことがあって。


ー『プリキュア』でですか。

ええ。例えば、ちょっと前に男の子がプリキュアに変身するシーンが話題になったんですけど、今までとは違う価値観を『プリキュア』という物語を通して提示しているような気がしたんです。その物語が受け入れられたのも、女の子だから、男の子だから。長女だから、長男だから、という当たり前だった価値観に対して「それはおかしくない?」と思う人が増えて、固定観念が薄まってきている結果だと思うんです。「私たちは、もっと自由であるべきだよね」ってメッセージですよね。

これからは、性別など属性ごと固定観念が薄まり、もっと「個」をベースとした幸せの在り方が認められるようになっていくんじゃないかな、って思うんです。


ー今後、XTalentとして社会に対して、どんな価値を提供したいですか?

働き方をもっと”フラット”なものにしていきたいですね。女性も男性も、パパもママも、属性の違いをお互いが認め合って、かつ、認め合うのが当たり前になる社会を実現したいですね。

働き方についても、今は正社員がいて、その下に非正規社員やフリーランスがいるって構図になってますけど、もともとは働き方って、もっと”フラット”であるべきなんじゃないかなと思うんです。個人が持っている無数の選択肢が、属性や固定観念によって無意識的に制限されてしまっているんじゃないかと。だからこそ、企業と個人の関係がより”フラット”になれば、個人の選択肢が多様化して、生きづらさから解放される人が増えると思うんです。

その”フラット”な社会づくりの一端を、XTalentで担いたいですね。


上原さんのTwitterはこちら

https://twitter.com/uetatsu39?s=20


編集アシスタント/外村祐理子

ニソクノワラジ

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