ひとりの声って最初は本当に小さいもの。だけど、声を上げないと、世の中は何も変わらないんですよね。ーはせおやさい(ブロガー)

誰もがブログやSNSで、社会に対する疑問や、問題を投げかけられる時代。

今回インタビューを行ったはせおやさいさんは、ブログをきっかけに、様々なメディアへコラムの寄稿を行なう人気ブロガーだ。はせさんは時に優しく、時に厳しい目線で社会のパートナーシップや働き方へ問題を投げかける。

それと同時に、はせさんは高円寺・小杉湯で『パパママ銭湯』という企画も運営する。

コラム執筆と、銭湯での企画。

はせさんの活動はどのようにして生まれて、そしてどこへ向かうのか。

今回は、人気ブロガー はせおやさいさんの「文章を書くこと」と『パパママ銭湯』にかける想いに迫った。



<Profile>

会社員兼ブロガー。一児の母。

一般女性が仕事/家庭/個人のバランスを取るべく試行錯誤している生き様を『インターネット備忘録』に綴りつつ、様々なメディアへコラムの寄稿を行なう。高円寺・小杉湯で毎月第3日曜日に『パパママ銭湯』を主催。著書にブログをまとめた『ブログにためになることなんて書かなくてもいい』がある。


私は働く人とコラムニストの目線から、双方をフィードバックし合おうと思った。


ーはせさんが文章執筆への興味を抱くようになったのは、中学生くらいの頃だったそうですね。

元々、作文が得意だったんですよね。自分が考えたことを文章にすると褒められる、っていう体験があって。自分の文章が人目に触れて、リアクションをもらえるのが楽しいって感じたのはテキストサイトに書いていた頃ですね。その後、mixiのブームが来て。テキストサイトサイトは知らない人が読者だったんですけど、mixiでは知っている人が読者になった。それで知人から「あなたそんなこと考えてたんだね」って声をもらえて、自分の考えていることをより深く知ってもらえるのって面白いなと思ったんです。そこから日記をたくさん書くようになりました。リアクションをもらえることが嬉しい楽しいって感じたのは、今の執筆活動につながる大きな体験でしたね。


ーコラムやエッセイで、はせさんが扱うテーマは、働き方だったりパートナーシップだったり、はせさんの身の回りの問題についてのことが多いですよね。扱うテーマははせさんの中でも変化していったのでしょうか?

そうですね。mixiと同時期にはてなブログでも日記を書き始めて、その頃は他愛のない、身の回りで起こった出来事とかを書いていたんですけど、ある時、「これっておかしいんじゃない?」って思ったことを書いたら、それについてリアクションをもらうようになったんです。特にブログを一生懸命書いていた頃は、仕事も忙しさがピークでした。一生懸命働いている時って、自分でも仕事について色々考えるじゃないですか。それで仕事についてどんどん日記でアウトプットしていったら、今もコラムを寄稿しているサイボウズ式に見つけてもらったんです。


ー仕事をしながらコラムを書くというアウトプットの方法は、当時のはせさんの生活の中でどのような位置づけだったのでしょうか?

思考の整理に近かったですね。私、社会人になって走り初めの頃は、すごい小さい会社に所属していて。いわゆるベンチャー企業で、社員も私と代表の二人だけ、みたいな環境だったんです。だから働くことってこういうことだよね、仕事のやり方ってこうだよね、っていう雑談をする相手がいなくて。先ほど言ったように仕事をしている時って色々考えるじゃないですか。私も仕事論を誰かと語りたかったんですよね。仕事について私も言いたいことがあるな、と思ったら、そこに自分のブログがあった。それでブログに自分の考えを書き綴ったら、人からもリアクションももらえるし、自分が普段考えていることの整理にも繋がったんです。


ー仕事を辞めて、コラムやエッセイの寄稿一本に絞ってみよう、とは考えなかったのでしょうか?

なかったですね。今もそれはないです。ちょっと考えたこともあるけど、とある方に「働いている人目線で、働き方について書いているはせさんの文章が好きだ」って言ってもらったことがあるんです。「コラムニストって、リタイアした後に第二の人生としてコラムを書く人も多い。だけど、実際に汗かきながら働いて、働き方について考えているのが、俺はすごくいいことだと思う」って。確かにリタイア後の文章って、ちょっと浮世離れしていくというか、引きの目線で書いているな、って感じることも多いんですよね。現場からしたら、「そんなことわかってるよ!」って思う文章もあるんですよね。だから、私は働く人とコラムニストの目線から、双方をフィードバックし合おうと思ったんです。それで、うまく両輪を回していくことができたら面白いキャリアを築けるな、って。


ー今は母親業もこなしながら、旦那さんのことや、ご自分のお子さんのことを題材にしたコラムの執筆もされています。SNSやブログサービスなどで、お母さんや奥さん自身も、子どものことや夫婦のことについてどんどん発信しようっていう流れがありますよね。自分自身の身の回りのことを発信する時に気をつけることはどんなことでしょう?

当たり前のことですけど、バカにしない、尊敬を忘れないことですね。私も夫のことについてコラムを書くときは「あなたのこと書くけどいい?」って事前に聞くようにしていますし、最低限のルールは設けています。夫婦でも、あくまで他人ですから、相手に対する尊敬と尊重を忘れずに、「うちの旦那なんて・・・」という言い方は絶対にしないことが大切。否定したりバカにした文章を書くのはNGだと思っています。


ー働き方のコラムでも弱さや会社の中での多様性を取り上げられていますが、それもご自分で見つけていったテーマなのでしょうか?

私の両親は聾唖で、「人間って生まれつき凹凸があるんだな」って幼い頃から思っていたんです。両親は「耳は聞こえないけど、自分の言いたいことははっきり言うぜ」っていう人たちで。私はそれがかっこいいと思っていたし、世の中って色々な人がいて当たり前だよね、って思っていたんです。社会人になって仕事をするようになっても、その価値観は変わらなかったんです。学生の時と違って、会社って色々な人がいるじゃないですか。全然知らないおじさんもいれば、地方出身の人もいる。バラバラな人たちが、会社という組織の中でうまくやっていくには、「あなたにはどんな凹凸がありますか?」って聞くことができて、「その凹凸をみんなで補い合おうぜ」って、認めあった方がいい。相手や自分の不得意を矯正するより、得意を伸ばした方が、相対的に効率が上がるんじゃないか、って思ったんです。自分でチームを持ったときに、そっちの方がチームメイクにもメリットがあるなって。


ーそういった凹凸に関する考え方だったり見方っていうのは、専業のコラムニストだったら発見できなかったと思いますか?

アップデートできていなかったと思いますね。他人を認め合うという社会の空気感が自分の中で更新されなかったんじゃないかなって。もし10年前に仕事を辞めて専業コラムニストになっていたら、10年前の価値観で今も物事を言っちゃってたんじゃないか、って恐怖はありますね。コラムニストだと、付き合う人も編集者だけ、とかになっちゃいますし、会社員として働いていたから、自分の価値観をアップデートしていけたんだろうなって思います。


ーはせさんのように、働きながら、子育てをしながら、自分の考えや身の回りのことをネットを通して世の中発信することには、どのような意義があると考えていますか?

これからの時代、感情を整理して他人に伝える言語化能力がとても重要になっていくと思うんです。自分の考えとか経験を人が読める文章にするのって、鍛えなきゃ身につかないスキルですし、やっぱり書かないことには書く筋肉は身につかない。だから、普段から日課として書けば、その筋肉も鍛えられる。

今は「個」に注目が集まっていて、個人が声を上げることに価値が高まっている。私も「私ひとりの声じゃ世界は変わらない」って思っている時期もありました。でも、ネット上に自分の感じている疑問を投げかければ、「あ!それわかる!」って同調してもらえるんですよね。ひとりの声って最初は本当に小さいもの。だけど声を上げないと、世の中は何も変わらないんですよね。個人がどう思っていて、何を欲しているのか、何が必要なのか発信していくのは、結果的に社会のためになると思うんです。


あなたのことを気にしているよ、って声をかけてくれるだけで、お母さんはすごい気持ちが楽になるんですよね。


ーはせさんは高円寺の小杉湯さんで『パパママ銭湯』という企画を主催されています。「パパやママが気軽に子どもを連れて来れる銭湯の日」という企画を立ち上げようと思ったきっかけを教えてください。

私は空腹と孤独が人間にとって一番良くないことだと思っていて。私自身、子どもを産んだ時にすごく孤独だったんですよね。子連れで入れるお店が少なかったり、孤独で辛いな、って感じることも多かったんです。もちろん、ママ友と呼べる人たちもいましたけど、ママ友って結局、均質な関係なんですよね。子どもの話題が中心ですし、そうではなくて「私」の話を受け入れて欲しい、って思っていたことがあって。「のんびりお風呂に浸かってくださいね~」っていうのはあくまで口実で、顔を合わせて月に一度、『パパママ銭湯』に来てくれれば、「どうしたの?元気なくない?」って声をかけることができる。「私、孤独じゃない」そう思ってもらえるタイミングを作りたかったんです。


ーお母さんは社会的に個が認められない空気もありますよね。

「〇〇ちゃんのママ」ではなくて、お母さんは「ひろ子さん」そのお子さんが「まゆちゃん」みたいに、お母さんやお父さんの「個」を認めてあげらてる空間を作りたいんです。

特に子育て中って、視野が狭くなりがちなんですよね。視野が子どもで埋まってしまう。例えば子どもがぐずった時に、一歩引いて、トイレに逃げちゃっていい時もある。でも、真面目なお母さんほどその状況から逃げられずに、狭い視野の中で自分を追い込んでしまう。だから、『パパママ銭湯』では、その視野を広げてあげたいな、って思っているんです。名前を呼ぶことで、「私は私」っていうアイデンティティを取り戻して欲しいな、って。


ー名前を呼ぶことでお母さんの表情も変わるのでしょうか?

変わりますね。例えば「〇〇さんの体は大丈夫ですか?」だったり、あなたのことを気にしているよ、って声をかけてくれるだけですごい気持ちが楽になるんですよね。子どもを連れたあなたに敵意を持っていないよって表すだけで、肩の力が抜ける。私も子育て中に「泣いちゃったら迷惑だから」って銭湯やお店に行けずに、人と接しない日々があって。たまに出かけた時に「お母さん頑張ってるね」って言葉をもらえるだけで、「私、頑張ってて偉いんだ」ってすごくホッとした経験があるんです。ママという私ではなく、私という個人を認めてもらえた気がして。そういう体験を『パパママ銭湯』っていうコミュニティで提供できたら、って思っています。


ーお母さんが自分の「個」を認められるのはどんな意味があるのでしょうか?

お母さん業だけだと、ふと虚しくなる瞬間があるんですよね。「あ、私、人生を降りたな」って思ってしまう瞬間があって。子育て中は人生の主役が子どもになっちゃうんですよね。だから、良くも悪くも主役である子どもの人生に依存してしまうこともある。「あなたの人生はあなたのものだよ」って言ってあげないと、あっという間に子どもに侵食されてしまう。子どもはいつか自立して、母親の元から巣立っていきますよね。そうなった時に、人生が空っぽになっちゃうんじゃないかな、って。それに、子どもに依存しすぎてしまうと、子どもも自由に生きられなくなっちゃいますよね。


ー世のお母さんたちが自分の抱えている想いであったり、課題を企画としてアウトプットするのは難しいことではないですか

その時の縁もあるし、タイミングもありますが、誰にでも始められることだと思います。まずは声をあげてみるのが大事じゃないかと。私も「こういう企画をしたい。助けてほしい」って声をあげた時に、保育士さんや保健士さんなどが集まってくれた。だから、ブログでも企画でも、まずは辞めないで発信し続けてみることが大切だと思っています。壮大な計画からだと疲れちゃうこともあるので、まずは小さなことから始めてみる。辞めない方法を考えてみれば、自然と助けてくれる人が集まって来て、自然と続けられるようになると思います。

あとは「子育てが落ち着いたタイミングでやってみよう」じゃなくて、子育てをしながら同時進行でやってみるのもすごい大事なことなのかな、って思います。思い付いた瞬間が、企画の始めどきなんですよね。私が仕事をしながら文章を書いていたのも、その最中に書かないと書きたい出来事とかを忘れちゃうからだし、真っ只中だから気づくことや、理解できることも絶対あるので、「善は急げ」で行動してみて欲しいですね。


ー今後は『パパママ銭湯』はどのように展開されていく予定ですか?

小杉湯だけではなくて、別の場所にも『パパママ銭湯』を広げていって、いずれは東京中でやってみたいんです。『パパママ銭湯』って、本質的には無くなっていくほうがいいんです。「子どもって銭湯に来るものでしょ」っていう価値観が社会に生まれれば、ゆくゆくは子どもを産むことへの抵抗がなくなったり、少子化の解決だったり、社会のために作用するんじゃないかと。

子どもを産むのが「怖い」って感じている女性って、やっぱりたくさんいると思うんです。「積み上げて来たキャリアが断絶しちゃうんじゃないか」とか「旦那さんとの関係が変わっちゃうんじゃないか」とか。残念なことに子連れがネットで叩かれてしまう風潮もありますよね。でも、私は『パパママ銭湯』がその恐怖心を拭うきっかけになって欲しいなって思っているんです。

人間の育っていく過程を身近に見れるのは、一生に一度のこと。子育てってめちゃめちゃ面白い。だからこそ、子育てをサポートしてくれる人がいる場所があるんだ、って認知が広がれば、子どもを考えてみようかな、子どもが欲しいな、って前向きに思える世の中になるんじゃないのかな、って思うんです。

ニソクノワラジ

『すべての"生きづらい"を、生きる力に変えるWebメディア』 ニソクノワラジは、様々な"生きづらさ"に悩む人々に、前向きな力を与えるウェブメディアです。今日の複雑化した社会では、仕事と私生活の両立、自分らしさの探求など、多くの人が様々な課題に直面しています。このメディアは、そうした"生きづらさ"と向き合い、それを"生きる力"に変えていくことを目指しています。

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